「やっぱり牡蠣(カキ)が好き!」そんな言葉を年に何度思い起こすことか。
フライに土手鍋、酢牡蠣、アヒージョ・・・。「もしかしたら・・・」と頭の片隅に赤信号が灯っても、つい手が伸びる。
牡蠣の小悪魔的な魅力にとりつかれている皆さんも多いはず。
一般的に多く流通している牡蠣は、真牡蠣で冬が旬。
ところが、春先から初夏にかけて旬を迎える牡蠣もあるのです。真牡蠣より大粒の岩牡蠣です。
肉厚でクリーミーな味わい、食べ応えのあるプリッ、トロッとした食感が魅力の岩牡蠣。
ここ松江では、春から夏にかけてが美味しい岩牡蠣を食べられる季節です。
実は島根県は岩牡蠣養殖発祥の地。日本海の海岸線に恵まれた松江も岩牡蠣養殖に適し、2011年に松江産を「松江いわがき」としてブランド化しました。きれいな海域で育ち紫外線殺菌施設で殺菌して出荷される松江産岩牡蠣は、生食でも安心して楽しめる海の幸。美食の旅をさらにランクアップさせてくれます。
山陰各地の岩牡蠣が食べられる松江で、今しか味わえない絶品のうま味と食感を楽しんでみませんか?!
今回は、「松江いわがき」の養殖の地を訪ねてみました。きれいな日本海を眺めたくなる旅コラムはこちら。
「野井には世界一があるんですよ」
――え!? それは何ですか?
「金村という苗字の人が、世界で一番多いんです(笑)」
嘘か誠か、そんなエピソードを出し抜けに披露するのが今回の主人公・永見輝晃さん(34)。6人の家族と一緒に、横浜からIターンした野井漁港の漁師です。
松江市中心部から島根半島を北北東に車で約30分、日本海の海岸線に野井漁港はあります。湾の沖合に築島(無人島)が浮かび、その南側の海域で「松江いわがき」は養殖されています。
山陰の岩牡蠣といえば鳥取県の「夏輝(なつき)」が有名かもしれません。「夏輝」は素潜り漁等で採られた天然もの。一方、島根県にも隠岐海士町ブランド「春香(はるか)」が存在しますが、こちらは養殖の岩牡蠣です。じつは松江市内でも、島根半島沖合で20年以上も前から養殖が始められていて、2011年からは「松江いわがき」の名称で出荷されているのです。
豊富なプランクトンを栄養に3~5年間育てられた「松江いわがき」は肉厚でプリプリ、濃厚クリーミーな味わいが楽しめます。なかには1キロを超える大物も。
「野井が自分を泳げるようにしてくれました」
と語る永見さんは、想像していたよりも小柄。人懐っこそうな笑顔が印象的です。
「子どものころから金ヅチだったんですが、今日も午前中の定置網では、ウエットスーツを着て、泳ぎながら大型船2隻に指示を出す役でした。いまでは10メートルの素潜りだってできます。野井にはサザエやアワビが、どこでも取れます。この湾内だって、潜ればいるんです。
泳ぎもできませんでしたが、海も嫌い、魚も食べない。岩牡蠣も野井に来て初めて食べました。水揚げした岩牡蠣は、紫外線殺菌施設で18時間殺菌して出荷されます。でも揚げたての岩牡蠣を、漁師は普通に食べます。それで調子がおかしくなるなんてことはない。とてもきれいな岩牡蠣なんです」
永見さんは1988年、静岡県生まれ。神奈川大学を出て、横浜市内の住宅リフォーム会社の営業マンをしていました。
「自分は本当にヒョンなことから漁師になりました。横浜時代は、自分で言うのもなんですが、バリバリの営業マン。ひとりで年間3~4億円の売り上げをつくっていました。でもコロナ禍になって家族との時間ができると、自然のなかで仕事がしてみたい、自給自足の生活がしたいという夢を実現したいと思うようになりました。そこで主に西日本をまわって移住先を探したんですが、3カ月間漁業研修を受けてみて、こちらで仕事をすることを決めました。自分の両親、奥さん、3人の子どもといっしょに、2020年9月に移住してきました。
いまは毎日朝4時に出港して、6時ころまでが定置網です。仕事は辛くないですか? と聞かれることもありますが、横浜時代は朝3時に起床していました。もともと早起きなんで、まったく苦ではないです」
ふるさと島根定住財団の紹介で野井定置漁業に入社。先輩漁師に教わりながら、定置網漁を始めます。小さな自分の船も持つようになり、「永幸丸」と名付けます。そのココロを尋ねると、
「永は自分の苗字を、幸は自分の天命である『関わる人を幸せにする』という意味を込めて。じつは自分の師匠は2人とも、名前に幸がついています。岩牡蠣の師匠は昌幸さん、定置網の師匠は幸雄さん。ついでに奥さんの名前も幸絵といいます。幸に縁があるんです」
やがて、もうひとつの転機がやってきます。
「岩牡蠣の師匠が『コロナ禍で岩牡蠣が売れないし、市場にも出せない。オレ、養殖やめるわ』と言う。それって、もったいないでしょう。だって施設はある、ノウハウもある、手伝ってくれる人もいる。で、9ヘクタールの施設を自分が引き継ぐことになったんです。
タネ(稚貝)は隠岐の島から仕入れています。そのタネをホタテに植えると、1年で3cm成長します。3年たつと10㎝くらいになるんですが、不思議なんですよ、大きくなる理由がわからない」
漁師になってわずか1年半ながら、永見さんは自宅に隣接する旧民宿かねむらを直売所に改修。4月29日に開業しました。
「岩牡蠣はネットでも複数チャンネル販売して、それなりの手ごたえはありますが、やはり直売所。築島を見ながら牡蠣を食べてもらいたいと考え、飲食業の許可を取りましたし、ジュニアオイスターマイスター(日本オイスター協会認定)の資格も取りました。
直売所の名前は船の名前をとって、『永幸丸ROCK OYSTER TERRACE(ロックオイスターテラス)』です。日本海を眺めながらその場で新鮮な岩牡蠣を召し上がっていただくことができます。
将来? 将来は築島にライフラインを通して、ここで暮らしてみたいですね」
◆美しい海が魅力の島根町の情報はこちら
日本海を一望できる「松江いわがき」の直売店舗はこちら。
岩牡蠣がゆっくりと時間をかけて育った島根町の美しい海がもうすぐそこに。
店舗名 | 場所 | 問合せ先 | 販売日 | その他 |
永幸丸 ROCK OYSTER TERRACE |
080-6379-9324 |
日曜日 10:00~15:00 |
岩牡蠣が食べられる飲食店兼直売所。予約して海を眺めながらの飲食がおすすめ! |
|
新鮮組(マリンショップしまね内) |
090-3374-0191 |
月・火・木・金・土 9:30~11:30頃(水・日・祝は休み) |
6月頃まで販売 |
(五十音順に掲載)
松江では、春から夏にかけて山陰各地でとれた岩牡蠣が食べられます。“牡蠣好きさん”のためのおすすめ店舗はこちら。
ビタミンやミネラル、タウリンなどが豊富な岩牡蠣を食べれば、旅の疲れが癒され、美肌効果にもつながりそう。。。
岩牡蠣の旬は春先から初夏にかけて、産地により入荷時期が異なります。
各店舗とも要予約となっておりますのでご注意ください。
店舗名 | 場所 | 問合せ先 | 産地 | その他 | |
居酒屋 よっち | MAP | 0852-78-9238 | 松江 | 要予約 | (昼・夜可) |
隠岐の味 鶴丸 | MAP | 0852-22-4887 | 隠岐 | 要予約 | (夜のみ) |
食事処 かわばた | MAP | 0852-28-5885 | 隠岐他 | 要予約 | (夜のみ) |
福間館 | MAP | 0852-73-0011 | 隠岐 | 要予約 | (昼・夜可) |
松江 和らく | MAP | 0852-21-0029 | 隠岐他 | 要予約 | (コース料理のみ/昼・夜可) |
(五十音順に掲載)
“牡蠣好きさん”に最後にもう一つ、「松江いわがき」を使用した黒ビール「松江いわがきスタウト」をご紹介します。
クラフトビールなど製造・販売する大根島醸造所(DaikonshimaBrewery)の商品です。
ほのかな磯の香りと、焙煎された麦芽の味がクセになる、さっぱりとした特徴のクラフトビール。
「とことん牡蠣が好き」の気分をより高めてくれることまちがいなしです。
※未成年者の飲酒は法律によって禁止されています。
大根島醸造所(DaikonshimaBrewery) [MAP]
<編集後記>
個人的に牡蠣が大好きですが、松江いわがきを食べられる機会はあまりないので今回の企画に興味津々でした!
実際に島根町の永見さんのところにお邪魔し生産の過程を見ることが出来て、
あらためて島根町の海の透明感や、波間にきらめく陽の光、島根半島の自然豊かなのどかな風景にも癒されました。
こんなに綺麗な海で育っている岩牡蠣。キラキラと美味しいのも納得です…!
時期が限られてはいますが、この時期だけのとっておきの味。機会があればぜひお試しください✨
(掲載日:2022.5.25)